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リモートワークの最新実情——欧米・日本の政府対応と成功・失敗事例

はじめに:「戻った」と「定着した」は両方とも正しい

リモートワーク(テレワーク)について、最近こんなニュースを目にしませんか。

どちらも事実です。世界のリモートワークは「全面撤退」でも「全面定着」でもなく、ハイブリッド(週数日出社+在宅)を軸に、国・業種・企業規模で分岐しています。

本記事では、欧米・日本の最新実情を公的データと実在事例から整理します。政府が何をしているか、どこで成功しどこで失敗したか——中小企業の経営者・人事担当者が「自社は週何日・どんなルールにするか」を議論するための地図を描きます。


世界の潮流:ハイブリッドが「標準」、フルリモートは少数派

国際比較では、指標の定義が国ごとに異なる点に注意が必要です。それでも共通するのは、「在宅だけ」「出社だけ」の極端な二極化ではなく、中間のハイブリッドが主流ということです。

国・地域ごとの主要指標(出典付き)

地域調査・対象主な数値出典
日本全国の就業者(4万人)雇用型テレワーカー 25.2%/直近1年のテレワーク実施 16.8%国交省 令和7年度調査(2025年10月)
米国リモート可能な就業者ハイブリッド 52%/完全出社 21%/完全リモート 27%Gallup(2025年)
EUテレワーク可能な職の回答者ハイブリッド 44%/職場のみ 41%/完全リモート 14%Eurofound 生活・労働 in Europe 2024
EU(参考)全雇用者(EU-27)主たる勤務地が自宅 9%(2025年)Eurostat LFS 系指標(通常自宅勤務)

日本の25.2%は「テレワークをしたことがある雇用者」の割合、米国の52%は「仕事が在宅可能な人」の勤務形態の内訳です。数字をそのまま国際ランキングにしないことが重要です。

企業の勤務形態ポリシー(米国・業界調査)

企業単位の集計では、2025年時点で次のような整理が多くの業界レポートに見られます(調査会社・対象企業により定義は異なります)。

出典:Founder Reports「Return-to-Office Statistics 2026」(複数調査の整理)。Gallupも、リモート可能就業者のハイブリッド比率は2022年半ば以降おおむね安定していると報告しています(Gallup, 2025)。

国際比較イメージ(指標定義は異なる)

日本・米国・EUのリモートワーク関連指標の比較。日本はテレワーク経験者25.2%と直近1年実施16.8%、米国はリモート可能就業者のハイブリッド52%等、EUはテレワーク可能職のハイブリッド44%等

つまり「在宅だけ」でも「出社だけ」でもなく、週2〜3日在宅・残り出社が現実的な落としどころとして広がっています。中小企業も、この前提で制度を設計した方が、採用・定着の両面で説明しやすくなります。


日本:テレワークは「安定基調」——政府は普及と助成で後押し

実態:コロナ後も高水準、令和7年度は増加に転じた

国土交通省の令和7年度テレワーク人口実態調査(2025年10月実施・就業者4万人)では、次のとおりです。

指標全国備考
雇用型テレワーカー割合25.2%前年比+0.6pt、減少から増加へ
直近1年間のテレワーク実施率16.8%前年比+1.2pt
制度導入企業での実際の活用率64.8%制度があれば約3人に2人が利用

首都圏では雇用型テレワーカー割合が**37.7%**と高く、地方都市圏(9.8%)との格差は依然大きいです。日本はかつて「テレワーク後進国」と呼ばれましたが、コロナ前を大きく上回る水準で定着している、と国交省は位置づけています。

出典:国土交通省 テレワークの推進(令和7年度調査)

政府の対応:府省連携の普及施策と中小向け助成金

日本ではリモートワーク専用法のような単一法令はなく、働き方改革の一環として複数府省が連携しています。

経営者向け(コスト対効果):助成金は制度設計と初期ICT投資の実質負担を下げる。通勤・転勤コストの削減効果は中長期で見込める。

人事向け(運用):国の求めるのは「緊急時だけの在宅」ではなく、規程・評価・育成を含む制度としてのテレワーク。就業規則への明文化が前提になる。

出典:厚労省 人材確保等支援助成金(テレワークコース)テレワーク総合ポータル


欧州:国ごとに法整備が進む、EU横断の「切断権」は協議継続

スペイン——テレワークを法制化、デジタル切断権を義務化

スペインは2020年の政令を経て、**リモートワーク法(Ley 10/2021)**でテレワークを整理しました。

欧州では「在宅を認める」だけでなく、常時接続を防ぐ方向の規制が進んでいます。

出典:BOE Ley 10/2021(リモートワーク)

EU全体——切断権指令は未成立、加盟国は9か国以上で国内法

欧州議会は2021年に切断権(switch off)のEU立法を求める決議を採択しましたが、2023年に社会対話(労使協議)が決裂。2024〜2025年も委員会の協議は続き、2026年5月時点で統一指令の草案は未提出です。

一方、ベルギー、スペイン、フランス、ポルトガル、アイルランドなど、加盟国レベルではすでに切断権やテレワーク関連規定が存在します。国境をまたぐリモート勤務では「どの国の労働法が適用されるか」が実務上の論点になります。

出典:European Parliament Legislative Train – right to disconnect

英国——入社初日からフレキシブル勤務を請求可能

2024年4月6日から、英国では入社初日からフレキシブル勤務(在宅含む)の申請権が拡大されました(従来の26週間勤続要件を撤廃)。12か月に2回まで申請可能、雇主は2か月以内に合理的な手続で回答する必要があります。

拒否は8つの事業上の理由に限定され、拒否前の協議が義務です。2027年以降はEmployment Rights Act 2025により、拒否理由の合理性説明がさらに厳格化される見込みです。

出典:GOV.UK Flexible workingEmployment Relations (Flexible Working) Act 2023


米国:連邦の一律ルールはなく、企業主導で「RTO」とハイブリッドが混在

米国には日本や欧州のような全国一律のテレワーク法はありません。コロナ禍の在宅拡大のあと、**企業ごとのReturn to Office(RTO)**が話題になっています。

企業(例)方針の方向時期・備考
Amazon原則週5日出社2025年1月〜(一部都市は席不足で延期)
Tesla週40時間以上の出社2022年〜(マスクCEO方針)
Google / Meta / Microsoft週3日以上出社のハイブリッド2022年頃から段階的に
Goldman Sachsフル出社2022年〜

業界集計では、厳格なRTOは離職率上昇と関連づける分析もあります。ただしテック業界では依然ハイブリッドが多数派というデータもあり、一律に「米国=出社回帰」とは言えません。

出典:各社報道・業界分析(例:Analysis Atlas RTO mandates 2025


日本のテック企業:フルリモートから「出社日あり」のハイブリッドへ

米国のRTOと同様、日本のメガベンチャー・テック企業でも「出社日を設ける」動きが進んでいます。ただし多くは週5日フル出社ではなく、週1〜3日程度のハイブリッドです。中小企業の人事担当者にとって、採用競争上の「当たり前の条件」が変わりつつある、という読み方ができます。

企業方針の変遷(概要)現在の目安
メルカリ2021年「YOUR CHOICE」で出社/フルリモートを個人選択 → Hybrid Workstyle週2日以上のオフィス出社を基本。フルフレックス継続
LINEヤフー2020〜24年は無制限リモート等 → 2025年4月から出社日を設定2025年4月〜:カンパニー部門は原則週1回出社、開発・コーポレート等は原則月1回(2026年4月から原則週3回へ段階移行を発表)
サイバーエージェント2020年6月〜「リモデイ」(推奨リモート曜日)出社とリモートのハイブリッド継続(チームで曜日を調整)
楽天グループコロナ禍の全面リモートから転換報道ベースでは原則週4出社・週1リモートのハイブリッド(2022年頃から)

メルカリ——「選べるフルリモート」から週2日出社へ

2021年9月からの「YOUR CHOICE」では、フルリモートも含め個人がワークスタイルを選択できる方針でした(プレスリリース)。

その後、採用サイトが示す現行方針は Hybrid Workstyle です。

百嶋氏が指摘する「オフィスでの偶発的な出会い」と、リモートの効率を掛け合わせる設計が、日本のテックでも具体化された例です。

出典:メルカリ採用 Workstyle

LINEヤフー——フルリモート廃止後、さらに出社日数を引き上げ

2025年4月の公式発表では、プロダクト創出力向上のため出社日を設けるとしています。

さらに2026年4月のリリースでは、赤坂オフィス開設に合わせ原則週3回の出社へ段階的に移行すると公表しています。米国テックの「週3日出社」と同型の動きが、日本でも加速している一例です。

サイバーエージェント——「リモデイ」でメリハリのあるハイブリッド

サイバーエージェントは2020年6月から、**特定曜日をリモートワーク推奨日とする「リモデイ」**を全従業員対象で運用しています。週5出社を義務づけるのではなく、推奨リモート日+出社日の使い分けで、チームの生産性とコミュニケーションを両立させる型です。

出典:サイバーエージェント Benefits(リモデイ)

楽天——「効率だけ」から週4出社へ(報道)

楽天はコロナ禍の全面リモートから、週4出社・週1リモートのハイブリッドへ転換したと、東洋経済オンライン等が報じています。3万人超の多国籍組織において、対面コミュニケーションと意思決定の速さを重視した、という整理です。

出典:東洋経済オンライン(2022年12月)

経営者向け:国内テックの採用ページでは「週2出社」「フルフレックス」が並ぶ。中小企業が完全出社のみだと、同職種で不利になりうる。

人事向け:大手は「出社日数」だけでなく、Workstyle Sync(チーム合意)推奨リモート曜日など、運用の型まで公開している。真似するなら日数よりルールの文書化から。


論点整理:テック大手はなぜ「出社」を強調するのか

ご指定の記事(TBS CROSS DIG with Bloomberg「なぜアマゾンやテスラは『フル出社』に戻すのか?」共有リンク)では、ニッセイ基礎研究所の百嶋徹氏が次のように整理しています。

日本の経営者にとっての示唆は、「テレワーク=コスト削減だけ」ではなく、何の成果(イノベーション・育成・顧客対応)のために出社するかを言語化する必要がある、という点です。前節のメルカリ・LINEヤフーなど国内テックの動きは、まさにその実装例と読めます。


成功事例:設計が先、ツールは後

GitLab——創業からのオールリモートと「非同期」文化

GitLabは2011年創業以来、本社オフィスを持たないオールリモートで拡大しています(McKinsey等の事例紹介)。成功要因として公表されているのは次のとおりです。

経営者向け:不動産費は抑えられるが、ドキュメント文化と採用・オンボーディングへの投資が前提。

人事向け:「在宅=監視できない」ではなく、タスクとレビュー周期を可視化する設計が必要。

出典:McKinsey「All remote from day one: How GitLab thrives」GitLab Handbook – Scaling all-remote

富士通——「Work Life Shift」で制度・オフィス・文化を同時改革

日本では富士通が代表例です。2017年からテレワーク制度を本格導入し、2020年以降Work Life Shiftとして、国内グループ(製造拠点等を除く)でテレワークを基本とする方針を打ち出しました。

経営者向け:大企業でも「制度+オフィス再設計+トップの行動」がセット。

人事向け:中小でも真似できるのは、週1〜2日在宅のルール明文化評価基準の見直しから。

出典:富士通 Social Well-being(Work Life Shift)


失敗・逆風事例:ツール先行と「出社=監視」

Yahoo(米国)2013年——在宅禁止の象徴的転換

2013年2月、米Yahoo!のマリッサ・メイヤーCEOは在宅勤務の原則廃止を人事メモで通知しました。理由として「廊下やカフェでの偶発的な対話」「スピードと品質」が挙げられ、世界的に議論を呼びました。BBC等が報じた通り、テレワーク=生産性低下という前提への回帰として受け止められました。

教訓:文化・マネジメントが未整備のまま在宅を拡大し、問題が出たあとに「全面出社」で矯正するパターン。日本企業が真似すべきではありません。

出典:BBC「Teleworking: The myth of working from home」

Amazon 2025年——フル出社と従業員の反発

Amazonの週5日出社(2025年1月〜、一部地域は延期)は、社内アンケート等で高い不満が報じられています。離職意向を示す従業員の割合が高い、という第三者分析もあります。

教訓:一方的なRTOは採用・定着リスクになる。特にスキル人材では、ハイブリッド維持が競争条件になりつつある。

出典:Stealth Agents「Return to Office Statistics 2026」(二次集計。一次は各社メモ・報道)

日本でも起きうる失敗パターン

総務省の整理でも、マネジメント・コミュニケーション不全で生産性が下がったという声が残っています。大規模人事システム導入失敗と同型で、「在宅か出社か」以前に、記録・評価・切断ルールがないことが問題になります。

出典:総務省 テレワークの推進


中小企業への示唆:「週何日」を決める前に3点を固定する

欧米・日本を横断すると、成功企業に共通するのは次の3点です。

  1. 目的の明確化——コスト削減だけでなく、採用・育成・BCM(事業継続)のどれか
  2. ルールの文書化——勤務可能日・応答時間・評価基準(成果か稼働か)
  3. 小さく試す——全社一斉ではなく、1部署・週1日から
視点問いかけ例
経営フル出社に戻すコスト(離職・採用難)と、週2日在宅のコスト(ICT・管理)どちらが大きいか
人事在宅日に上司が何をもって「働いた」と判断するか、就業規則に書けるか
現場顧客対応・製造・現場職は除外し、対象職種を限定できているか

【事例】IBMはすでに世界的なフルリモートワーク(完全在宅勤務)を実施しておらず、現在は「出社回帰(RTO:Return to Office)」および「ハイブリッドワーク」へと完全に舵を切っています。

  1. 管理職への「出社か、退職か」の通達 2024年初頭、IBMは米国のすべての管理職(マネージャーおよびエグゼクティブ)に対し、週に最低3日はオフィスに出社することを義務付けました。さらに、オフィスから遠方に住むリモートワーカーに対しては「オフィスから50マイル(約80km)以内に転居すること」を求め、これに従えない場合は退職(事実上の解雇)を迫るという厳しい姿勢を示しました。

  2. 一般社員(クラウド部門・営業部門)への適用拡大 この「週3日出社」の義務化は、管理職だけでなく一般社員の多くの部門へ次々と拡大されています。

クラウド部門(Cloud Teams): 対象となる従業員は、指定された「戦略的オフィス」に週3日出社することが求められています。

営業部門(Sales Staff): 顧客企業との関係強化を名目とした「Return to Client(顧客への回帰)」イニシアチブにより、顧客のオフィス、またはIBMの主要フラッグシップオフィスやセールスハブに週3日勤務することが義務付けられました。これに伴い、拠点の集約(テキサス州ダラスからオースティンへの移転など)も進められています。

  1. キャリアへの影響 IBMのCEOであるアーヴィンド・クリシュナ(Arvind Krishna)氏は、以前から「完全にリモートワークを続ける従業員は、昇進の機会を逃すリスクがある」と明言しており、対面でのコミュニケーションやコラボレーションの価値を強く強調しています。

💡 背景にある企業の思惑 業界内では、この厳格な出社義務化や強制的な転居命令は、直接的な解雇手当などを発生させずに人員を削減するための「実質的なステルス・レイオフ(隠れ人員削減)」ではないかとも指摘されています。

出典: 管理職への週3日出社義務化と転居命令のニュース 米経済誌『Fortune』:IBM issues a return-to-office mandate—and a stark warning to remote managers 米テックメディア『The Register』:IBM issued ‘return to office or leave’ demand 米経済紙『The Wall Street Journal』:IBM Tells Remote Managers to Move Near an Office or Leave the Company

クラウド部門・営業部門への出社拡大のニュース 米テックメディア『The Register』(クラウド部門):IBM cloud commercial sales staff given three-day RTO order 米テックメディア『The Register』(営業部門):IBM instructs sales staff to hybrid up or clear out

CEOアーヴィンド・クリシュナ氏によるリモートワークへの見解 米『CNBC』のインタビュー記事:IBM CEO Arvind Krishna warns remote work can hurt your career

まとめ:リモートワークは「終わらず、設計が問われる」

今日からの一歩:次の3行を社内で埋めてください。

ツール選定は、この1枚ができてからで十分です。


よくある質問

Q. 中小企業でもテレワーク助成金は使えますか? A. 厚労省の**人材確保等支援助成金(テレワークコース)**は中小向けです。就業規則整備・研修・ICT等の要件があり、最新の支給要領はテレワーク総合ポータルで確認してください。

Q. 欧米の「切断権」は日本でも必要ですか? A. 法定の「切断権」は未整備ですが、勤務間インターバル(2019年施行)や就業規則での時間外連絡ルールは、在宅拡大時の実務リスクを下げます。

Q. テック企業が出社を求めるなら、うちも週5出社にすべきですか? A. 必ずしもそうではありません。自社の職種・顧客・人材プールが異なります。競合がハイブリッドを維持している領域では、週2〜3日在宅が採用条件になることもあります。

Q. 評価基準は「成果」と「稼働時間」、どちらを重視すべきですか? A. リモート/ハイブリッドでは、原則として成果(アウトプット)とレビュー周期を評価の中心に置くのが安全です。稼働時間は補助指標にとどめ、タスク分解→週次レビュー→フィードバックの流れを可視化します。

Q. 在宅日のコミュニケーション設計で、最初に決めるべきルールは? A. まずは応答時間(通常時の目安)と、緊急時の連絡チャネル・時間外の扱いを決めましょう。あわせて、会議/非同期の使い分け(チャットとドキュメント、週次の1on1等)も社内規程(就業規則または運用ルール)に明文化すると運用が安定します。


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